「旅の過程にこそ価値がある」 ウーマンダイアローグ#8



[記事内に広告が含まれています]

今回のゲスト♡ 葛西亜理沙さん

写真家。
横浜生まれ。サンフランシスコ州立大学芸術学部写真学科卒業後、写真家・坂田栄一郎氏に師事。その後、独立。東京を拠点に活動。広告や雑誌、WEBなどで写真や動画の撮影をする他、個人の作品を国内外で発表している。
Photographer’s Forum- Best of College Photography 2004、第63回朝日広告賞入賞。第16回上野彦馬賞「九州産業大学賞」受賞。

インタビューする人♡ 渡辺彩季

京都府出身、東京在住のフリーライター。
女性をターゲットにしたメディアを中心に美容、ファッション、ライフスタイルなどの幅広い記事を執筆中。
美容が大好きで、コスメコンシェルジュ、全米ヨガアライアンス、アロマテラピー検定1級などの資格を取得。

ウーマンダイアローグ#8 【写真家/葛西亜理沙さん】

渡辺:今回のゲストは、写真家の葛西亜理沙さんです。実は先日撮影でご一緒したのがきっかけでこの対談に結びつきました。こんなにすぐに再会ができてうれしい。よろしくおねがいします!

葛西:よろしくおねがいします! さきちゃんが「対談の連載で写真家と対談したいな」とちょうどおっしゃっていたので……これもなにかの「縁」ですね♪

渡辺:本日は、普段の撮影の仕事ではなかなか聞くことができない、亜理沙さんのお話を赤裸々に語っていただきたいです。早速ですが、現在の仕事の内容を教えてください。

葛西:広告、雑誌、カタログ、ウェブなどで主に写真や動画の撮影をしています。師匠は、日本の写真界を代表する坂田栄一郎(さかたえいいちろう)さん。その坂田さんの師匠は、世界的に有名な写真家のリチャード・アヴェドンさんです。師匠の教えを受けて、ポートレイトやモデル撮影の仕事をしています。

渡辺:人物以外の風景や動物などは撮らないのですか?

葛西:旅も大好きなので、旅先で出会った風景や景色も撮っています。でも、どちらかというと「きれいに撮る」というよりは、「自分の視点で切り撮っていく」ということに意識を向けています。

旅が大好き! 「1日1旅」を連載中

渡辺:現在、朝日新聞デジタル&TRAVELで連載をされていますよね。

葛西:はい。「1日1旅」という連載をしています。

渡辺:「1日1旅」ということは……毎日更新されているのですか?

葛西:平日は、毎日です。連載では、旅先で出会った忘れたくない景色、人など……元々旅好きなのでプライベートで海外に行ったときの写真や、海外ロケの仕事もあるので撮影の合間に撮った写真も載せています。

渡辺:連載はどのような経緯ではじまったのでしょうか?

葛西:過去にキューバに行ったときの写真とエッセイを雑誌に掲載してもらったことがあったのですが、それを見てくださった編集者さんに声をかけていただいたのがきっかけです。

渡辺:すごい、スカウトされたのですね。

葛西:お話をいただいたときに「……毎日更新ですか!?」と戸惑ったのですが、やりたかったことなので挑戦してみることにしました。

渡辺:毎日更新される連載を持つことは大変だと思いますが、写真家として多くの人に写真を見てもらうチャンスですよね。

朝日新聞デジタル&TRAVEL 1日1旅

夢は、「世界を舞台に仕事をすること」でした

渡辺:亜理沙さんが、写真家を志したきっかけを教えてください。

葛西:短大生の頃にスピードプリントができる写真店でアルバイトをしていました。当時は、まだデジタルカメラではなく、フィルムカメラが主流でした。フィルムをお店に預けて、1時間くらいで印刷が完了して写真が仕上がるものです。

  この頃に美術大学に通っていた姉の一眼レフを借りて写真を撮り始め、夢中になっていました。アルバイト中にお客様の写真を現像してみているのも楽しかったです。しかし、まだ仕事にしたいとまでは考えていなくて、当時の将来の夢は漠然とですが……海外で国際関係の仕事をすることでした。

渡辺:かっこいい!

葛西:志だけは(笑)。最初は、「国際連合で働きたい!」と。それで、世界を舞台にしたいのだったら英語は必須だと思い、短大卒業後にサンフランシスコに留学をしました。しかし、留学中に既に海外のNPOで働いていた従姉妹に将来の相談をしたところ、「世界を舞台に仕事がしたいなら、国連で働いても海外に行けるとは限らない。事務など内勤の場合もある。もし海外で仕事がしたいなら、自分のやりたいことで世界に繋がればいいんじゃない?」とアドバイスをもらいました。

  その話を受けて、自分の好きなものと向き合った結果、「写真」に結び付いたんです。留学当初は「国際関係論」を学んでいたのですが、写真家になるために「芸術学部写真学科」に専攻を変えました。日本の学校は学部受験なので途中で学部を変更することが難しいけど、アメリカは自由に専攻を変えることができるんです。その分、取る単位は増えますが。

「胸騒ぎがした」 師匠・坂田 栄一郎さんとの出会い

葛西:留学から帰国したあとに、坂田栄一郎さんの写真展に行きました。そしたら、すごく感銘を受けて! とにかく「この方にお会いしたい!」と思いました。それで、実際に会いに行くことにしたんです。

渡辺:え!? どうやってアポイントを取ったんですか!?

葛西:「坂田栄一郎」とネットで検索したら事務所のホームページが出てきて、そこに記載されていた電話番号に掛けてみることにしました。勇気を出して電話するべきなのか「どうしよう!」と思いながらも……。そのときに時計を見たら、9時57分で……10時になったら電話しようと決めていました。なぜか、妙な胸騒ぎがしたんですよね。「今ここで電話しなかったら、私はきっと後悔する」って。

渡辺:すごい行動力ですね、その結果は?(前のめり)

葛西:はい! そうしたら、当時の坂田さんのアシスタントをしていた方が電話に出たんです。当初は「作品を見ていただきたい」という気持ちで電話をかけたのですが、気が付けば勢いで「アシスタントを募集していませんか?」と聞いていました。

  その時は「アシスタントは現在募集しておりません。」と答えられたのですが、そのタイミングで「あ、ちょっと待ってくださいね。坂田に代わります。」と突然電話で坂田さんと話すことになったんです! しかも、その時間に坂田さんが事務所にいらっしゃることは、かなり稀だったみたいで……奇跡的なことだったそうです。運命って本当にあるんだなって思いました。そこで留学で学んできたことや坂田さんの個展を見て心が動いたということを話して……初めて会話を交わすことができたんですよね。

渡辺:亜理沙さんの引き寄せる力が強かったのでしょうね!

葛西:そして「先程、アシスタントは募集していないと伺ったのですが、作品を見ていただくことは可能でしょうか?」と思いきって聞いてみました。そうしたら「いいよ!」と快諾してくださって、その次の週に作品を見ていただくことができました。そのときに「撮影を見に来る?」と誘っていただきました。継続して会えるだなんて思ってもみなかったので、予想外の出来事に驚きが隠せませんでした。その後、何回かお手伝いをして、正式にオフィスに入れてもらえたのです。

渡辺:急展開ですね! 亜理沙さんの行動力が未来を変えた瞬間ですね。

葛西:私はそれまでにスタジオにも入った経験がなかったし、どちらかというと自分流で撮影をしていました。坂田さんの仕事を目の当たりにしたことによって、基礎的なことから専門的な部分まで全てを勉強させていただくことができたのです。

  学校で学んで、スタジオに入って、そこから写真家のアシスタントを経て、独立する……というのが一般的な写真家の流れです。しかし、私はスタジオの部分をカットして、大学卒業後にアシスタントをすることになりました。

渡辺:短縮できたことももちろんすごいのですが、さらに自分が一番憧れていた方に直々に指導してもらえるというのは、この上ない幸せですよね。今でも交流は続いていますか?

葛西:坂田さんのもとで5年間学んで、2010年に独立しました。それからも私が関わった仕事を見て、連絡をくださいます。「あれはよかったよ!」「ここはこうした方がいいよ!」と感想やアドバイスも。本当に師匠と師匠の奥様にはお世話になって、今もいろいろ教えてもらうことが多いです。

ポートレート撮影は、相手を知ることが大事

葛西:坂田さんは、朝日新聞出版の「AERA(アエラ)」というニュース週刊誌の表紙で1988年の創刊から2016年初めまで錚々たる方々を撮られてきました。それこそ、国内だけでなく海外の方もいらっしゃいます。坂田さんから基礎を学ぶと同時に、撮影現場でもたくさんのことを教えていただきました。被写体とのコミュニケーションの取り方、現場の雰囲気づくりなど、その場にいないと分からないことも多くて。

  私も坂田さんのように、撮影前は相手のことを勉強してから撮影に臨みます。例えば、女優さんでしたら出演されてる映画を見たり、作家さんでしたら小説を読んだり。そして、現場では出来るだけコミュニケーションをとるように心がけます。ポートレイト撮影というのはファッション撮影と違って、「人を撮る」ので、”その人” のことを知らないと撮るのが難しいです。

渡辺:私も、その部分は全く同じですね。ライターとして、取材をするときは必ず事前に準備をします。ゲストも忙しくされているので、インタビューや対談で話せる時間は限られています。たとえば、このウーマンダイアローグの連載だと、ゲストと仕事の魅力を上手く引き出さないといけません。相手や仕事のことを調べておくことは、とっても大切! 表現する手段が「文章」と「写真」で違っていますが、表現する仕事という意味では共通する部分がありますね。

葛西:そうですね! ライターの方とお仕事をする機会が多いのですが、厳しくツッコまれているのを見たことがあります。「え?私のことを調べてきていないの?」って。

渡辺:作品や公式ホームページ、SNS……その人を知るきっかけは、たくさんありますものね。いいものを作り上げるためにも、一緒に仕事をする相手を知ることは大切ですよね!

「縁」や「出会い」を大切にしていれば、仕事も幸せも舞い込んでくる

渡辺:現在フリーランスとして活動されていますよね。どうやって仕事をとっていますか?

葛西:私は、本当に「縁」です! 坂田さんがとても面倒見のいい方で、独立する前に「この人に作品を見てもらうといいよ。」と教えてくれたんです。私がアシスタント時代に仕事でお世話になった方から、繋がって、繋がって、そこからまた繋がって……今も仕事をさせていただいています。

渡辺:今回の対談もそうですよね! 偶然私がモデルの仕事で亜理沙さんに写真を撮っていただいたのがきっかけでしたし。

葛西:そうそう! どこで仕事に発展するか本当に分からない。

渡辺:じゃあ、意識して営業などは特別されていませんか?

葛西:「現場でなるべくいい空気を作る」ということは心掛けています。それが仕事に直結するかはわからないけど、「ありさちゃんがくると現場が和む!」と言っていただけたこともあります。

渡辺:たしかに。まずは「この人にまた会いたい!」と思われないとはじまらないですものね。

葛西:だから、現場でもなるべくコミュニケーションをとるようにしています。被写体以外の方にも興味を持ちます。それで、その場で話が盛り上がって、そのまま仕事に繋がることもあります。一期一会のことが多いから「いかにいい出会いにできるか」と常に意識はしています。

渡辺:そうですね。別の職業の方とは「一期一会」になってしまうことも多々あると思いますが、私はこのウーマンダイアローグの連載を通して毎回ステキな方とお話しをさせていただいているので、また「続き」を聞かせていただきいたい。お互い成長して、再会できたらうれしいです。

葛西:そう思ってたら、本当にまた仕事が一緒にできて、長年の付き合いになることもあるんですよね!

「お団子ヘア」はトレードマーク

渡辺:写真家は人気の職業ですが、他の人と差別化している部分などはありますか?

葛西:私は、第一印象で覚えてもらうために、いつも同じ髪型にしています。どの現場でもお団子!

渡辺:たしかに。前に仕事でご一緒したときもホームページのプロフィールなどもお団子ヘアでしたよね!

葛西:はい!「お団子ヘアで覚えてもらおう」と坂田さんが提案してくれました。 現場、メディア出演、プロフィール写真……すべて統一しています。

渡辺:キャラクターの確立や覚えてもらう工夫をすることは大切ですよね。第一印象は「見た目」で決まるから、特徴をもつことで一歩リードできそう! そのあたりもきちんと考えていらっしゃるところが、さすがです。

私は、「写真」を通してメッセージを伝えていきたい

渡辺:たくさん旅をされていますが、一番よかった思い出の場所はありますか?

葛西:選べないですね。旅先でのアクシデントやトラブルも、それはそれで大切なもの。どちらかというと「場所」ではなく、旅先で出会った「人」が自分の中では一番残るかな。

  例えば、イタリアで携帯を失くしたとき。絶対に手元に戻らないと言われたのですが、携帯を置き忘れたタクシーの運転手が届けて下さって奇跡的に受け取ることができました。旅先の出会いは一期一会が多いけど、記憶として大切にしています。旅先で親切にしてくださった方には、そのときに直接御礼を返すことができない場合もある。でも、その気持ちを他の誰かに分けて繋げることはできるかなって。

渡辺:すごく共感します。私も旅先で現地の方に道を教えていただいたことがたくさんありました。本当に助かったし、感謝しています。だから、時間のあるときに道に迷ってそうな人に自分から声をかけて道を教えています。もはや、趣味かもしれません(笑)。

葛西:本当にひとつひとつの「出会い」を大切にすると人生が充実する。私は、出会いによって写真家になったし、人との繋がりでどんどん仕事の幅が広がった。

  今はネットも便利だし、いろいろと発信できる手段がある。「こういう世界だから、こう変えなくてはいけない」と言うのではなく、「写真」で自分と世界の繋がりやメッセージを伝えていきたい。自分が日頃考えていることや社会に対して思っていることを「写真」として世の中に出しています。

渡辺:夢の原点は、世界と繋がることでしたものね。

葛西:そう「世界と繋がりたい」って! 私の写真を見てもらった人になにか感じてもらえたらいいな。考えてもらうきっかけになれば、世界がほんの少しだけでも良い方向に変わっていくかもしれない。

写真家 葛西亜理沙 公式ホームページ

インタビューを終えて…

「海外で世界を舞台に仕事がしたい!」と、漠然としたところからはじまった亜理沙さんの夢。趣味として続けていたことが仕事になるということもあるから、未来は本当に分かりません。今は道に悩んでいる方も、どこかで自分にとっての天職に気付くことができるかもしれませんよ。

また亜理沙さんが、写真とエッセイが連載の仕事に繋がったように、ひとつのことにだけ縛られず、人に伝える手段をどんどんかけ合わせていくことで、始まるものもあります。何か活動したいと思っている方は視野を広げて自分の活動の幅を広げることも大切なのでしょう。

師匠の坂田さんとの出会いのお話は、まるで小説を読んでいるかのようなドラマティックなものでした。「今、行動を起こさないと行けない気がする」という胸騒ぎによって行動を起こす。みなさんも同じような経験が一度はあるのではないでしょうか。
根拠のないものかもしれませんが、そういった不透明な気持ちが人生のターニングポイントになることもあるので、「信じる勇気」を持って自分の声に素直に従う強さが必要です。

「旅の過程にこそ価値がある」

亜理沙さんのように、旅先の「縁」や「出会い」を思いきり楽しみましょう。その土地でしか触れることができないものは、たくさんあります。
旅も人生もいいことばかりではありません。しかし、そこから学ぶことも多いと受け止める姿勢を持つことが成長に繋がるのです。

HAPPYオーラが溢れる亜理沙さん。ひとつひとつの繋がりを大切にできる人だからこそ、周りからも愛されているのでしょうね。今後撮られる写真にも注目していきたいです。

photo:石川ヨシカズ