形だけの残業削減
@_s_dayo
みなさんは「残業」についてどんなイメージを持っていますか?
疲労困ぱいであっても長時間働かせるブラック企業があるように、残業をすることを”悪”だと認識している人が多いかも知れません。今や、働き方改革の影響で大手企業では残業をさせないよう、さまざまな取り組みを増やしています。パソコンを強制的にシャットダウンしたり、社内の電灯を落としたり。残業を減らすための施策はビジネスパーソンにとって良い方向へと進むと思われていましたが、現状では「形だけのものになっている」ことも多いようです。
光文社から発売されている『残業学~明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?~』によると、残業がなくなればみんなが「幸せになれる」と思っていましたが、実はそうでもないようで、時間を減らしたとしても仕事量は減っていないことからサービス残業をしている人が急増しているといいます。もちろん、サービスであることから残業代が入るわけはなく、会社のイメージも悪くなる一方。
では、どうすれば良いのか?
そのためには、なぜ残業が発生してしまうのかという原因を理解しておくことです。残業のメカニズムについて知っていきましょう。
残業は「集中」して「感染」し、そして「遺伝」する
残業はまるでインフルエンザかのように「集中」して「感染」し、そして「遺伝」していくというメカニズムになっています。そのメカニズムを詳しくチェックしていきましょう。
「集中」
会社では、デキる人にほど仕事が集中します。仕事を早く終わらせようと努力を重ね、それを実現してしまう人ほど上司の目に留まる。すると上司は、その優秀な部下に、どんどん追加の仕事を与えてしまいます。
本来であれば、就業時間内にパフォーマンスを発揮する人を労わるべきですが、人手不足などのさまざまな影響により、業務は日々複雑化しています。「プレイングマネージャー」と呼ばれる、自分の目標とチームの目標を同時に追う上司も現れ、とにかくみんな、時間がない状況にいるのです。
そこで優秀な部下に仕事を投げることで、自分の業務に集中できる時間が確保できる……と長時間労働が生まれてしまいます。
残業を重ねる人の業務遂行能力は徐々に上がっていきますが、残業しない人はスキルが上がっていかない。よってメンバーとの格差がどんどん広がっていくことになります。
「感染」
2点目は、残業は「感染」する、という特性です。
この「感染」の可能性を高めるのが「残業インフルエンサー」という存在です。若手社員が憧れる対象は、ずばり仕事がデキる上司や、デキる先輩。ですが、先ほど伝えたようにデキる社員にはたくさんの仕事が与えられるが故に残業が多いという傾向があります。
そのため、人より早く帰ろうとすると「あの人は仕事ができない」といったレッテルを貼られてしまいます。そう思われないために「フェイク残業」があるのです。
「帰りにくさ」は若い人ほど感じやすく、上司の残業時間が長くなればなるほど、帰りにくさや後ろめたさが増していきます。結果、空気を読んだ若手社員も残業することが増え、大勢の社員が残業する形になってしまいます。
遺伝
入社してからはじめの数年間で経験する「初期キャリア」の働き方は、その後の仕事人生に大きく影響します。これが「感染」です。
若い頃に長時間の残業をしていると、自分が上司という立場になったとしてもまるでクセかのように、長時間労働をしてしまいます。同じように部下に「遺伝」し、残業する・させる上司になる可能性が高まるのです。
この「残業体質」が、世代や転職による組織をまたいで受け継がれてしまう連鎖を作り出してしまいます。
中にはたくさん残業をしても「幸福度」が高い事実がある
恐ろしい残業のメカニズムですが、1つ不思議な点もあります。
それは、残業を多くしている人の一部には「幸福感」が微増するという傾向があることです。一般的には、残業が多いことは疲れやストレスを招く、と考えられているはずなのに、これはなぜでしょうか?
それは、職場の環境や出世の見込み、そして働く本人の「有能感」があるからです。出世の期待により残業をしている社員は、心理的には満足度が高い傾向にあります。
しかし、キャリア人生はこの先まだ長いというのに、大きな病気になるリスクを蓄積しながらも残業を継続するのは確実にデメリット。どんな対策を取っていけば良いのでしょうか。
マネジメントの質の向上を
理想は“残業をしなくても、高いパフォーマンスが発揮できること”です。
そのためにはマネジメント能力を上げることが必要になります。今までは「残業」をどのように減らすのかという「仕組み」づくりをしていましたが、一番に必要なのは仕組みではなく、部下の能力をあげること。
部下の能力を高めるためには、上司が現場や組織をしっかりと把握し、部下の能力を上げられるよう教育をするといった、マネジメントの基本をこなすことです。
また、残業すれば評価されるという仕組みがあるのであれば「評価制度」の見直しや、退社した後の楽しみをつくるというライフワークの充実さも残業を減らすために忘れてはいけません。
負の連鎖から脱却するためには、ただ単に「ノー残業デー」や「PC強制シャットダウン」という仕組みを作るのではなく、現場の声をくみ取ることがどの会社にも必要だといえます。
参考文献
中原淳、パーソル総合研究所著『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? 』(光文社新書)