♯シャネル、アーサーとの破局
シャネルはアーサーというパートナーの献身的なサポートのおかげもあり、自身の商才を伸ばしていきます。もともとシャネルは時流を読むことが得意。世の中に今何を求められているのかを素早くキャッチし、それをビジネスとしてアウトプットしていく才能に長けていました。しかし、どんなにシャネルに才能豊かな一面があっても、世間一般的に女性が自立して働くことはまだ、異例中の異例という時代。社会がシャネルの生き方を許さなかった時代だったのです。
そんな折に出会った魅力的なパートナーであるアーサーは、シャネルそのものの生き方を認め、愛すことのできる唯一無二の異性でした。彼の精神的・物理的な支援のおかげで、シャネルは自身の才能を開花させていくことができます。自分自身でお金を稼いで生きていきたいとずっと望んでいたシャネルにとってアーサーは本当にかけがえのないパートナーだったのですね。しかし……。
シャネルがどんどん自分の手を離れて自立していく様子を目の当たりにしたアーサー。心のどこかで「シャネルは僕がいなくても一人で生きていけるのか……」と、えも言われぬ寂しさを覚えたのではないでしょうか。結果的に彼はシャネルとは全く別の魅力を持ち、社会的地位のある女性と結婚をすることになりました。
♯引き際の美学すらも覆した、愛しい人
強烈に引き寄せられる二人が選んだ結末が決別。シャネル自身も、自分が自立をするほどにアーサーの心が少しずつ離れていっているのを予感したのでしょうか。別の人と結婚をすることを承諾したのか、その真偽は定かではありませんがこういった言葉を残しています。
「恋の終わりは、自分から立ち去ること」
きっと、アーサーが抱えていた寂しさも理解をしていたからこそ、自分と一緒にいることが苦痛になった彼を引き止めることもなく送り出したのではないでしょうか。しかし、それでもシャネルは自分史上もっとも愛した異性を失った直後は、どうにもできないほど苦しく、辛く、離れがたい思いをしたようで……。結婚後も何度かアーサーと逢瀬を重ねることもあったようですね。道ならぬ情事があったかどうかまでは史実として明らかにはされていませんが、少なくとも二人にはまだお互いに対する熱い情熱を抱えていたということは明白だったのではないでしょうか。
♯突然の死による別れ
晩年、シャネルは雑誌のインタビューで自身の恋愛観について先の名言を伝えています。しかし、この言葉にはまだ続きあるのをご存知ですか?
「 立ち去る勇気が持てないときは、いつも死によって引き裂かれた 」
シャネルは恋愛においては引き際が大事と言いながらも、どうしても人生でもっとも愛したアーサーを自分の手で手放すことができませんでした。いけないとは思いつつも、彼との関係を断ち切れないままでいたそのタイミングで、アーサーは交通事故に遭い突然彼女の前からいなくなってしまったのです。実は、この数十年後に出会うもう一人の最愛の恋人とも彼女は死別をするのですが、晩年に発言したこの言葉は哀しくも寂しいシャネルならではの人生そのものを物語っていますね。
恋をして、幸せな人生を歩むこともできた。シャネル本人がそれを望もうと思えば、いくらでもそのチャンスはあった。でも、そのチャンスを前に彼女がいつも選んだ道は、自分の力で地に足をつけて生きることでした。それでも彼とだったら……と思えた相手とは、もう二度と会えない距離にまで離れてしまったことで、彼女は半ば強制的に自立した人生を歩まざるを得なかったのではないでしょうか。シャネルの類稀なる才能は、孤独な人生を歩むことと引き換えに天から与えられた、悲しくも美しいギフトだったのかもしれません。
♯自立とは
自立して生きるというのは、自分の一切に責任を持つこと。自分の力で稼ぐ、自分の力で生き抜いていく。とても強く壮大な目標を持っている人は素晴らしいと思います。しかし、もう1つ大切なことを覚えておいてください。人は、どんな人でも弱い生き物だということを。
女性も男性も大人も子どもも関係なく、人はだれかに甘えて寄り添って、頼られて生きていきたいと願う生き物。自立して生きる強さを求めるあまり、その弱さをはねのけて生きていこうとすると、誰もあなたを頼れなくなってしまいます。シャネルの生き方は、誰が見ても素晴らしいものでしたが当の本人は、晩年になればなるほど孤独を感じていたのではないでしょうか。孤独だったからこそ、あそこまでの世界的に有名な作品を作ることができたと思えば、なるべくしてなった人生だったのかもしれません。
でも、それが全ての人に当てはまる「幸せのかたち」とは限らないのです。ぜひ、シャネルの人生を通してご自身の幸せのあり方にも向き合ってみてください。