管理職になるのに不安を感じる女性たち
長く同じ会社に勤めていると、誰しもが「岐路」に立たされることがあります。特にCinqの読者の年齢で経験するものでいうと「管理職」が当てはまります。みなさんは「管理職にならないか?」そう、声がかかってきたら、なんと答えますか?
2018年11月に発表されたあしたのチームによる「中小企業の女性の働き方に関する調査」によると、女性社員の自身の働き方に対する意識について、「将来管理職になりたいか」を聞いたところ、「そう思う」と答えた女性社員は14.3%にとどまったそう。
ビジネスパーソンにとって、キャリアアップできるのは嬉しいことですが、管理職という責任が問われる仕事を任せられると不安に思う方もいらっしゃるはずです。そこでCinq取材班は、管理職として活躍している、株式会社ガネット 経営企画・広報の志子田 亜裕美さんにインタビュー。管理職になって良かったことや気を付けるべきこと、仕事と家庭の両立についてお伺いしました。
志子田 亜裕美さんプロフィール
グループ会社に新卒で入社し、2年目からガネットに参画。ガネットが運営する介護資格学校「日本総合福祉アカデミー」を社長と執行役員との3人でスタートさせ、立ち上げメンバーとして勤務。現在は、企画、教務 運営の管理、広報など事業運営を担うガネット初の女性管理職。
不安より期待感が大きかった
やはり管理職になるのに不安はあったのでしょうか?
不安がなかったと言われれば嘘になるんですが、管理職になるのは私の中では意外と自然な流れだったように感じます。
元々は一般企業向けの社員研修の教育コンサルティングを行っていたのですが、その中から介護専門に特化した研修事業を立ち上げることになりました。そのタイミングで、私から代表に「介護の学校を作りましょう」と伝えたことが始まりです。
学校をどういう風にするか、人材配置をどうするか、仕組みをどうするかなど、事業の仕組みをイチから考えるところがスタート。仕組みがある程度整ってからは、プレイヤーとして4〜5年。サービスがようやく整ってきたなと感じるところで、今の執行役員と出会うきっかけがあったのですが、その会話の中で、「自分と同じような知識と経験を持ったメンバーを『分身』として育てていけたら、個々で出すパフォーマンスが、より大きな力になるのではないか?」と気付き始めたのです。
私自身がプレイヤーの枠から一歩外に出た管理職という立場になることによって、思い入れのある事業部をさらに大きくしていけるのではないか、と思いました。管理職になることはもちろん初めての経験なので不安もありましたが、それよりも期待感の方が圧倒的に大きかったです。
管理職になる前のイメージと、なった後の違いを教えてください。
自分自身が管理職になる前は、管理職という立場の人は自分とは関係のない、すごくかけ離れた存在であるようなイメージがありました。
ですが、現在では、今の上司に教わってきた「自分の上司を押し上げて部下を引き上げる、信頼関係を基にしたチーム作り」で会社を発展させることができるような管理職になりたいと思っています。管理職になる前のイメージと、かなり違ってきていますね。人を育てて、より大きく盤石な組織へと作り変えていく過程を身近で見てきたので、自分自身も同じように実践して、会社をさらに盛り上げていきたいと思っています。
管理職になって楽しいと感じることはありますか?
やっぱり、部下の成長が実感できたときは非常に嬉しいです。
本人が成長していくことで会社への貢献度も高まりますが、本人が今後のキャリアを作っていく上でも土台になっていくことなので、自分が関わって指導した部下が一つ一つキャリアの階段を上がっていくことにとても喜びを感じます。
あと率直に「志子田さんが上司で良かった」と言っていただけるのは嬉しいですね。そのためにも、いつでも私の扉はオープン状態であるということをわかってもらえるようにしています。仕事以外にも趣味の話であったり、声かけを積極的に行ったりして「この上司は私を気にしてくれている」ということをわかってもらおうと思っています。
どんなことが大変だと感じましたか?
会社には、私より年齢が上の方や、他業界からジョインしている方も含め、色々な人がいます。なので個々の状況はそれぞれ。人に合わせたマネジメントをしなくてはいけないのが難しい点ですが、それができるように気を付けています。
マネジメントを行うにあたっては、かなりの数の本も読んでいますが、直属の上司に、実際の仕事を通して教わっていることが一番の勉強になっています。いきいきとした組織をつくることが管理職の重要な役割であるということを体感しているので、それぞれの強いところを活かしていけるように心がけています。
部下に教えるとき気を付けていることはありますか?
今は、東京・大阪・名古屋と離れた場所に部下がいるのですが、顔が見えないコミュニケーションに特に気を配るようにしています。顔が見えないぶん、意外なところでコミュニケーションミスが起きがちだからです。
電話口での一言で単純に意味の取り違えが起こることもあれば、それぞれの記憶違いによって行き違いが起こってしまうこともあるので、なるべくミスが起こらないよう、事実ベースで話しながら相手がどこまで把握できているのかを確認しながら会話しています。
また、メールなど記録を残しながら進めた方が良いケースもあるので、伝え方やコミュニケーションの取り方を少しずつ変えています。電話だけではなく、スカイプのように顔を映しながら対面で会議をしたりして、コミュニケーションミスが起こらないようにしています。
仕事も家庭も「人」と「人」
ご結婚されていますが、家庭内ではどんなルールを決めていますか?
食事は自然と、早く帰ってきた方が作るという流れができているのですが、私より夫の方が早い定時なので、ほとんど夫が作ってくれています。ただ、私が帰ってきた時に夫が夕飯を作っていたとすれば「お風呂は私が入れとくね」とか。私が洗い物をしていたら「じゃあ洗濯は僕がやっておくよ」と。
ルールとしては決めていないのですが、自然とお互いに協力する姿勢があります。
できるだけ声をかけて「これは私がやります」というのを声に出すようにしています。惰性でやっていくと「何でやってくれなかったんだ」と不満の気持ちの芽が出てきますが、意識的にやっていくと「やってくれてありがとう」とお互いへの感謝の気持ちになります。忙しい日々の中でも、惰性にならないよう、二人で楽しんで家事に向き合うよう気をつけています。
同じ趣味を持っているので、休日はよく一緒に出かけるのですが、一緒の予定もそれ以外の予定についても、共有アプリを利用してお互いのスケジュールを確認し合っています。
共有アプリを使っているのは驚きですね!
共有アプリを使うのも、コミュニケーションミスが起こらないようにするためなんです。パートナーのことだから「わかり合える」と思い込んでしまいがちですが、やっぱり言い忘れたり、思い込みがあったりして会話が噛み合わなくなってしまうことってあるんですよね。そんな小さな掛け違えから想いが行き違ったりすることもあるので、できるだけ会話の時間を取るように。
記録としても、そして思い出と一緒に残せるよう、アプリを活用しています。
なんだか、仕事と共通している部分があるように感じます。
仕事とプライベートを完全に分けられる方もいらっしゃると思うんですけど、私は結構一緒なんですよね。どちらも楽しみながらやっているので、仕事が大変な時は家庭が息抜きになることもあるし、家庭が大変な時は仕事が息抜きになることもあります。これって表裏一体。どちらかの調子が良ければ、もう片方の調子も良くなると考えています。
人と関わっている時間がすごく長いので、会話の中で気づくこともすごく多いです。つまずいたり、悩んでいることがあったとしても、一人だけで解決できることには限りがあります。人との関わりの中で、解決できるヒントが得られるものがあるので、コミュニケーションはオン・オフどちらにも気を配っています。
なりたい管理職像をイメージし、障壁は仲間と解決していく
管理職になるのに不安を感じる女性にアドバイスをお願いします。
どういう管理職でありたいのかを、自分なりに見つけることが大切だと思います。私が思っていた管理職のイメージと、今私が体現している管理職とは全く違うものになっているように「こうであるべきだ」というものから少し踏み出してみることも良いと思います。遅い時間まで残っているのが管理職ではないですし、強いだけのイメージが管理職でもないのです。
自分が理想とする管理職像があっても、働きやすい制度が整ってなかったり、人間関係がイマイチだったり……もしかしたら障壁があるかもしれません。そういった課題に直面したときこそ、管理職候補の人が解決できるように努力する。それによって、後ろに続く女性たちの道が切り開かれていきます。
なので、直面した壁にはしっかりと向き合っていっていただきたいですね。一人の戦いではないので、その後に続く女性、管理職ではない道を選んだ女性とも協力する必要があるかもしれません。活躍できるはずの人材が、女性であることやそれ以外のさまざまな事情で埋もれてしまっている状況はいまだにあって、これからの社会にとってそういったさまざまな多様性をもったビジネスパーソンが活躍できる場を整えていくことも大切な課題であると感じています。管理職の道は、人と協力をしながら作り上げていってもいい道だと思うので、決して一人で背負うわけではない、と周囲にも目を向けてほしいです。
管理職って大変なイメージがありますけど、楽しいことや嬉しいことも非常に多い役割なので、怖がらずにチャレンジしてもらいたいですね。