【連載】ココシャネルに学ぶ「時代をつくる女の生き方」♯5



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初めての挫折

ココ・シャネルの史実を知っている方なら、彼女がどれだけ芯が強く、自分の力で運命を切り開いてきたかを知ることができるでしょう。しかし、そんなシャネルでも様々な挫折を経験しています。その初めての挫折とも言えるのが、歌手への道を諦めたことではないでしょうか。

前回のコラムでシャネルは自分の力で仕事を手に入れるために、歌手の道を極めようとしていたとお伝えしましたね。シャネルは踊り子兼歌手として、ムーランではなかなかの売れっ子でした。彼女の叔母であるアドリアンヌと共に名声を手に入れ、順風満帆な生活を送っていました。このまま歌手として生きていけるのでは…!と期待し、意を決してお針子の仕事を辞めて、より高みを目指そうと、レベルの高い歌手が集まるヴィシーという場所へ拠点を移します。

しかし拠点を移した以降、オーディションは落選続き…。あのシャネルもヴィシーでは井の中の蛙だったのです。なんとか気持ちを奮い立たせるも、とうとう自分はここではやっていけないと悟ると、完全に自信を喪失。シャネルは傷心状態でかつていたムーランへ戻ることになりました。

エティエンヌ・バルサンによる救いの手

ムーランにはシャネルのファンである取り巻きの男性が何人もいた。そのうちの一人である、上流貴族のエティエンヌ・バルサンはシャネルに「愛人として一緒に暮らさないか」とシャネルに申し込みをしていた。歌手としてやっていける可能性を見出していたら、きっとシャネルはこの時、エティエンヌの申し出を断っていただろう。しかし、自分には地位も名声も富もない。このまま生きていてもお針子の仕事に戻るしかできないと確信したシャネルは、エティエンヌの愛人として、彼と共に生活をすることを受け入れたのです。

今でこそ『愛人』というと、不誠実な関係とされていましたが、シャネルの生きた時代では、男性にとって愛人を持つことはステイタスの象徴でした。そのため風俗産業も盛んで、身分の低い女性が唯一成り上がれる職業こそが娼婦・愛人という職業でした。娼婦や愛人にも様々な階級や制度があり、複数の男性と関係を持つ愛人もいれば、生涯たった一人の人を愛し抜く愛人もいたのだとか。

エティエンヌとシャネルの関係は後者で、たった一人の男を愛し抜く愛人として彼のシャトー(子城)で贅沢な生活を送ることになりました。でも、エティエンヌにはもう一人、エミリエンヌという愛人がいたのですけれどね…。こともあろうに、シャネルとエティエンヌを同じシャトーに住まわせるという始末。最初こそ、女同士のいがみ合いはあったのかもしれませんが、シャネルとエティエンヌのはタイプの違う魅力的な女性で、次第に二人は戦友のように切磋琢磨し合う仲になったのだそう。エミリエンヌの存在は、シャネルがデザイナーとして成功して行くためのキーパーソンともなっていきます。

贅を尽くした場所でシャネルが学んだこと

生まれた血筋で貧富の差が決まる時代に生きたシャネル。身分の低い生まれの女性が社会的な成功をおさめる道は『高級娼婦』になるか、『愛人』として囲われて暮らすかのどちらかしかありませんでした。しかし、高級娼婦になることも、お金持ちの愛人になることも言うほど簡単ではありません。

愛人になったところで、男の人に捨てられれば元の生活に元どおり。高級娼婦としての地位を築いても、年を取るごとに目減りしていく世界。確固たる幸せな生活を確保することといえば、『結婚』のほかにはあり得ません。シャネルもまたエティエンヌの愛人ではありながら、結婚はできないと彼の言葉の端々から感じていました。

幼少期の母の姿、身分の低い女がたどる末路からシャネルは男の力で生きることは本当の意味で『自由』ではないと感じ始めるのです。普通の女性は“貴族の愛人”という当時でいう最高峰の立場を獲得したならば、将来のことなど案じるよりも先に贅の限りを尽くしたり、幸せに満ち溢れた生活を送ろうとします。

しかし、シャネルは本質を見抜く才能がある女性。これは永遠に手に入れた自由ではないと気づくやいなやエティエンヌの屋敷にあった、さまざまな小説を読み漁り“教養”を身につけます。どんな小説にも必ずそこには学びがある。小説を通して見える世の条理や、人間性、これまで身分の低さから学べなかったこと、知らなかった世界をしっかりその目で焼き付けていたのです。

与えられた環境を活かす力を大切に

今回ご紹介したエピソードは最もシャネルらしい強さが垣間見えたものだと私は考えています。不遇な状況や、自分にとって辛いと思われる出来事が起こったとしても、落胆するだけじゃなく、そこから何を得られるのかという“先”を見る賢さがある。

そして、ふっと与えられたチャンスを常に掴んで離さないキャッチ力も強い。正直、エティエンヌの愛人になるというのは、シャネルにとってチャンスであるいっぽう、賭けでもあったと思います。身分は低く、貧困の生活ではあるものの、愛人にならず真っ当な生活を送れば、自分と同程度の身分の男性と結婚をしたかもしれない。でも、上流貴族の愛人となれば、貴族との結婚はほとんどあり得ない。公然と愛人をしていた女性に他の男が結婚を申し込むチャンスもほぼないと言って良い状態になります。

それでも現状打破を望み、どんな状況でもなんとか生き抜いていく知恵を新しい環境で見つけていくしかない!と、彼の手を取ったのかもしれません。そして文字通りシャネルは与えられた環境にただ、あぐらをかくのではなく次の一手、また次の一手と学びと実行を繰り返していきます。この強さと賢さは現代の私たちでもぜひ見習いたいですよね。

どんなに不利な立場でも、その環境に置かれた意味がある。学ぶことがある。変わらぬ本質さえ見抜き続ければきっと未来は明るいものになっていくはず。もし今後アナタにとって不利な状況が起こった時はぜひ、シャネルのような考え方を取り入れてみてはいかがでしょう。負のスパイラルから抜ける手立てが見つかるかもしれません。