『アイドルを引退した私が思う“大切なこと”』スピーチライター千葉佳織×元SUPER☆GiRLS勝田梨乃 前編



[記事内に広告が含まれています]

ひとりの人間として、女性として『今、伝えたいこと』

高校入学と同時に、エイベックスのメジャーグループ一期生としてアイドル活動を始めた勝田梨乃さん。6年間の学業とアイドル活動の両立を経て、学んだことや感じたこと、そして卒業した今だからこそ、同世代の女性に向けて伝えたいことを語ってくれました。

千葉:今回、女子スピーチ&プレゼンテーション講座にゲストで登場してもらうのは勝田梨乃さんです。私と梨乃は北海道の高校の同期なんです!
私の講座では、人前で話すスキルの向上の他に、自分のキャリアについて考える機会も持ってもらいたいと思い、今回特別講座を実施しました。私自身、挫折経験もあって、今から半年ほど前に「自分は本当は何をやりたいのか」深く考え直したことがありました。結果、今スピーチライターという仕事を行うことができています。
やりたいことを見つけるために、意識していたことが2つあります。
(1)尊敬する人の人生のストーリーを学ぶこと
(2)会ったことない人に直接会う勇気をつけること
今回、参加者のみなさまにもそのような機会を持っていただきたいと思い、勝田梨乃さんにきてもらいました。梨乃と私で、特別講座のスピーチを一緒に考えていきましたので、ぜひ受け取っていただければ幸いです。 

“普通”という言葉に囚われていた

勝田:小さい頃から「梨乃って変わっているね」「普通じゃない」と言われることが多かったんです。
「普通って一体なに?」「普通じゃないわたしって何なの?」という疑問を持って、“普通”の意味を辞書で調べたくらいです。
実際に辞書を開くと“ごくありふれたもの”と書かれていましたが、この“普通”という言葉に囚われて、苦しめられていたことがたくさんありました。北海道という場所から、抜け出して視野を広げたいと思ったのも、それがきっかけかもしれません。
毎日同じ学校に通って下校後は塾に行く、の繰り返し。こんな毎日に窮屈さを感じて「北海道から出たい」という気持ちは強くなる一方でした。そんなとき、当時開催されていたエイベックス初となるアイドルグループ結成のための一般オーディションがあるのを発見した私は、すぐに応募を決めました。応募者の数は、約7000人。オーディションを重ねて、そのうちの12人に選ばれたことで私の人生はがらりと変わりました。SUPER☆GiRLSの一員になったことで、普通の女子高生だった私に、アイドルという肩書きがつきました。

千葉:アイドルオーディションに合格した時、高校でもたくさんの人から祝福されたり、注目されていたことが印象的でした。

自己分析と人の評価が反比例する毎日

勝田:注目度も高まっていたSUPER☆GiRLSは、徐々に知名度も上がって、第53回日本レコード大賞新人賞も受賞しました。アイドルとして一歩ずつ順調に進んでいるように思えましたが、気づけば私の心の中は、進んでいく活動とは真逆の苦しさでいっぱいでした。小さい頃からダンスを長年通っているメンバー、私よりずっとずっと可愛いメンバーが、自分のすぐ隣に居るんです。周囲に比べてルックスは劣るし、実力も伴ってない、評価もされない。なのに、外に出たら好奇の目で晒されているような気がしました。

ファンの方が求めているのは、ツインテールで前髪ぱっつん、北海道から出て来たばかりの、純粋で元気な勝田梨乃だったと思います。
けれど実際の私は、毎日勉強と仕事をこなすことに精一杯。北海道〜東京間を週に何往復もして、目の下にできたクマを隠すのにとにかく必死。厳格な両親から言われていた「大学を卒業する」という約束は、絶対に果たさなければいけないものでした。もちろん、学校という場所でも、学校外の時間でも、勝田梨乃のイメージが悪くならないよう、行く場所や態度にも気を配りました。

体力も精神にも限界を感じたときに、自分を守るため覚えた術が「人が求められている自分になればいい」ということでした。
普通でいることは難しかったけれど、みんなに求められることをやるほうが、楽なのかもしれないと気づいたんです。自分の見た目も発言も気持ちも、周囲が求める勝田梨乃になりきろう。そう思っていた時期もありました。しかし、取材で趣味を聞かれても、答えられないくらいに“本当の自分”は、わからなくなっていきました。

千葉:私は高校で”高校生の梨乃”を見ていて、誰よりも体力を使って努力しているはずなのに、いつも元気で笑顔でいることをずっと尊敬していました。だから、最初はそのような苦労があったことを知らなかったです。今回エピソードを知って、その元気の影にはものすごい努力と葛藤があったんだと実感しました。

存在意義を求めて飛び出した世界

千葉:アイドルという素晴らしい肩書きを持ってでも、新しい道に進むと決めた梨乃の決意は、とても思い切っているなと感じていたんです。

勝田:大学を卒業する直前にこれからの生き方について考えるようになりました。芸能界で生きるスキルは私には十分伴っていないのかもしれない、アイドルとしての活動もいつか限界がきてしまうとも思いました。私はもともと、「グローバルな人になりたい」という漠然とした夢を持っていました。北海道から東京に出て頑張ることは、それを叶えるための一歩だったはず。そんなことを考えている時、私の中で何かがパッと弾けるのを感じました。
アイドルというファーストキャリアは、私にとって大切な、肩書きです。けれどそんな肩書きがもし自分になかったら、自分はどうやって生きて行くのか。試行錯誤した結果、アイドルを辞めてボストン留学をすることを決意しました。自分探しの旅だったようにも思えます。

留学で過ごした毎日は、とても刺激的で自分の視野を広げてくれました。けれど、留学を終え日本に戻った時、待ち受けていたのは社会から求められる”普通”に適応することでした。

黒い髪に黒いスーツ、みんなと同じに就職活動を始めました。学業と芸能界を両立させてきた私のこれまでの努力を社会でも認めてもらえるはずはず! と当時の私は思っていました。

けれど、いくつか行った就活でも、「大学のユニドルでやってたなら分かるんだけど、本格的にやっていた子はね…」と言われたり、「普通の仕事より芸能界の方が良いんじゃない?」と言われる事もありました。就活に出ればでるほど、これまで自分がやってきたことに自信が持てなくなり、自身の存在価値が見出せなくなりました。

社会人の友達が仕事の話を楽しそうにするたびに、応援したい一方で、自分の気持ちが苦しくなることもありました。自分が“普通”を求めるほど“普通”が遠ざかっているような気がして、苦しくて仕方のない毎日が続きました。

自分を見つけるきっかけは海外だった

勝田:けれど、時間が経てば開き直るしかない。海外から戻って、自分の価値観が少しずつ変わっていることに気づきました。自分の経験は自分にしかわからない、だからこそ自分が自分を大切にしなくちゃ、と思うようになったんです。
これまでの私は、自分と同じような経験があるロールモデルの存在をずっと探していました。けれど、どれだけ周囲を見渡しても、そんな人は見つかりません。同じ工程を過ごした人はいない、だからこそ誰かの意見にずっと左右されていても意味がない、という考えにたどり着きました。

これまでは、挫折は隠すもの、弱音は吐かないもの、失敗は恥ずかしい事と思い込んでいました。けれど、今の私はその全てが成長するために必要だった経験と思えるようになりました。人それぞれに様々なバックグラウンドがあり、魅力や良さで溢れています。その良さを発揮できるかできないかは自分次第。自分自身が一番のサポーターとして、胸を張ってできることを今後も学んで行きたい、と思っています。

千葉:アイドルの方は多くの人に夢を与える存在で、本当にかっこいいと私は思っています。そこにはおそらく「自身が元気でいること」へのプレッシャーもあるのだろうなと思っていました。それを持ってでも「自分の葛藤や失敗を語ってくれる」梨乃の言葉は本当に強いし、輝いていて、ものすごく心を打たれます。

「ま、いっか」を合言葉に

勝田:私は不器用なので、プライベートも仕事も器用に、ということには向いていないかもしれません。けれど、目の前にあるものを1つずつこなして行くのは得意です。あとはもう一つ、「ま、いっか」と物事を楽観的に捉えることも覚えました。今後も自分らしさを忘れずに、様々なことに挑戦し”私らしく”自分の満足できる人生を切り開いていけるように頑張っていきたいと思います。

千葉:今回のスピーチの内容の検討や、ライティングに関わらせてもらって、梨乃自身の「人としての美しさ」により一層、心惹かれました。梨乃が勇気を出して語ってくれたこの思いを、私たちはしっかりと受け取っていく必要があると心から感じます。

ゲストプロフィール

勝田梨乃(かつたりの)

北海道生まれ。2010年、高校在学中、女性アイドルグループ・SUPER☆GiRLSのメンバーとなる。6年の芸能活動を経てグループを卒業し、2016年からボストン留学で新しいスタートを切る。2018年、立命館大学卒業。

講師プロフィール

千葉佳織(ちばかおり)

北海道生まれ。弁論を15歳からはじめ、全国弁論大会で3度優勝、内閣総理大臣賞を受賞。2013年、ミス慶應SFCを受賞。2017年、株式会社ディー・エヌ・エー入社。スピーチライターとして個人コンサルティングや、大学、教育機関などで授業を行う。

前編では勝田梨乃さんの『 “今”伝えたいこと』をレポート記事としました。
次回の後編では、「どういう風に魅せると人を惹きつけられるのか」といった、「演出」について、スピーチライターの千葉佳織さんと対談している様子を公開します。