大切にされたい、愛されたい。価値を高めペースを握る『ゲイン-ロス効果』



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ソクラテスは言いました

ギリシャの哲学者ソクラテスは、ある娼婦から「私の体をもっと高く売るにはどうすればよいのでしょうか?」という質問を受けたそうです。当時は、娼婦というのは社会的に認められた職業だったのですね。

その時、ソクラテスは「初めは求めを断りなさい。次に求めに応じなさい。そうすれば相手の喜びは数倍になるでしょう」とアドバイスしたそうです。普通なら、顧客のニーズに沿うことが顧客を喜ばせることができると考えることでしょう。ところが、相手の求めを断ることで、顧客の喜びが大きくなり、高く売れるということになるというのです。このように、相手の申し出をいったん断り、その後承諾することで相手を燃え上がらせ、自分の価値を高める効果を『ゲイン-ロス効果』といいます。

デートに誘う実験も

このソクラテスの逸話を証明するような実験も、これまでには行われました。社会心理学者の渋谷昌三氏によると、この実験では、男性の参加者(被験者)たちは、これから会う3人の女性(実験スタッフ)に、デートを申し込むように指示。これに対して、研究者はこの3人の女性に次のように答えるよう指示したということです。

1、「いいよ」と快諾する
2、「用事があるの。でも、あなたの頼みならいいわ」と、最初は断り、後から承諾する
3、「イヤ」と断る

そして、男性被験者に対して、どの女性の対応が好ましいと感じたのかを尋ねました。普通なら、「1」の快諾した女性の好感度が高いと考えることでしょう。ところが、被験者の男性たちが、一番好感度が高いと感じたのは、「1」の女性ではなく、いったん断った後でOKを出す「2」でした。
まさに、ソクラテスの「初めは求めを断りなさい。次に求めに応じなさい。そうすれば相手の喜びは数倍になるでしょう。」というアドバイスを支持する結果になったのでした。

「ゲイン-ロス効果」が働く理由

『ゲイン-ロス効果』が働くプロセスは、プロ野球の応援に使われるジェット風船に似ています。
風船に空気を入れていくと、風船はドンドン膨れ上がり、ある1点を超えた時点で風船は内部の圧力を支えきれず破裂してしまいます。この点を「閾値(しきいち)」といいます。しかし、「閾値」に達する前に持ち手を放すと飛んでいきます。閾値に近くなるほど風船の内部圧力が高まって、風船は空に向かって勢いよく飛んでいきます。

私たちの心もこの風船と同じ。
一度は申し出を断られたことで、フラストレーションで風船が膨れ上がります。そして、閾値を超えると怒りとなって爆発してしまいます。これに対して、一旦断った後で承諾するケースでは、承諾されることが風船を放すことと同じ効果をもたらします。
フラストレーションが吹き飛ぶことで、心は一気に軽くなり、喜びは大きくなります。また、「あなたの頼みならいいわ」と相手の価値を高く評価していることがわかるので、相手も嬉しく感じます。
それと同時に、相手はこのプロセスを通して、あなたの存在の大切さ(価値)を思い知ることになるのです。このようにして、顧客や上司はあなたを信頼することになり、恋愛の場合は相手の愛情を高まらせます。

相手に「恩」を売って評価を高める

それでは、ビジネスシーンでの使用法についてです。

急に「残業して欲しい」「休日出勤をして欲しい」と上司に言われたら、気持ちが重くなりますよね。しかし、考え方を変えれば、上司に貸しを作り、ペースを握るチャンスでもあります。しかし、即OKをしては『ゲイン-ロス効果』を使うことになりません。
できる限り貸しを大きくして、恩を売るのがコツ。そのためには、即OKを出すのではなく、一旦、保留するのがオススメです。

例えば、次のような感じです。
上司「◯◯日、残業してくれないか?」
あなた「予定が入っているのですが、調整してみます。」
しばらくして
あなた「調整できました。何をしますか?」
上司「ありがとう。これなんだけど……」

また、顧客からの依頼に対しても、そのまま承諾するのではなく一旦断ることがポイントになります。
顧客「○月○日までに、企画書を提出してほしいのですが」
あなた「今は、仕事が立て込んでいて難しいのですが…(悩みながら)、○○さんからのお話ですから、何とかしましょう」
顧客「忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
このようにすれば、顧客は「わがままばかりは言えない」と考えて、あなたに一目置くようになるはずです。

『ゲイン-ロス効果』は一度断るだけのテクニック。
誰でも簡単に使うことができます。ただし、同じ人物に対して、繰り返し使うと不審に思われてしまうこともあるので、多用はしないように注意してください。恋愛にも、仕事にも使える心理学。ぜひ参考にしてみてくださいね。