Siriみたいな会話しかできないオトコ/#毒女通信



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友達と飲みに着いてきた、そのオトコ

今日はちょっと仲の良い男友達に付き合ってもらって、飾らない飲みをしよう。そう思い立って、男友達を呼び出した。四谷三丁目の駅で待っていたその見慣れた顔に、ちょっとした安堵感を覚えながら、ぱっと目に入った焼き鳥屋に入る。

「お疲れ~」

「おっす久しぶり」

飾らなくていい男友達は楽で好きだ。頭がいいから仕事の話もできるし、ある程度遊び慣れてるから、女子との食事のマナーもバッチリ。ビールを乾杯して、一息ついたときに、男友達が言った。

「今からもうひとり、呼んでもいい?」

え、珍しい。
単純にそう思った。(友達いたんだ、よかった。とも思った)とはいえ、こいつの友達や知り合いなら、ほどよく面白そうだ。

「全然いいよ~。何時くらいに来るの?」

「あと30分くらいで着くらしい」

「おっけ」

そこからはすぐにいつもの会話に戻る。今やってる仕事の話、最近あった色々。こういう、気を遣わないでいられる雰囲気が最高。そこで、噂のオトコがやってくる。

「お邪魔します。すみません、突然。」

白いTシャツに、ちょっと使い古したパーカー。よくいえば脱力系男子って感じ。

「いいえ~、どうぞどうぞ。なに飲みます?」

あっさりと会話は進んでいく。どうやら彼は、こんな風に見えてわりと優秀らしい。そのくせにちょっと天然な雰囲気もあるし、正直女に騙されそうで危なっかしい。時間をかけて掘り出していくと、面白い話が聞けそうだ。全くオトコを匂わせないその脱力した雰囲気に無精ひげが、好感度を上げる。類は友を呼ぶ。まさにか。

その日はのんびりと飲んで、趣味でもある映画の話をひたすら続けた。私の話に、めちゃくちゃ興味があるわけでもなさそう、だけど絶妙なタイミングで相づちを入れてくれる彼は、飾らない好感度がばっちりだ。きっとクセになる女性は居るんだろう、だってこの低音で響く「へぇ」はなんだかすごく耳あたりがいい。

何も気取る必要のない、良い友達ができた。別れ際にさらりと、そのオトコともLINE交換をする。またみんなで、飲みに行こうと。

あの日はそう思ったけれども、そこから彼の残念な部分を見つけるのに時間はかからなかった。

数日おきにしか、返す気にならないLINE

昨日はありがとうございました。

そんなありきたりなお礼メールの後には、定期的な”俺通信”が届くようになった。(※俺通信=まるで時報を伝えるかのように、俺の近況を定期的に誰かにお届けすること)

私が言葉を発しても、あの聞きあたりの良い相槌は無機質な機械では一切感じることができない。なんともつまらない会話だ。

定期的にある俺通信によると、彼は仕事の合間に朗読会に通い始めたらしい(謎すぎ)。彼はとても感受性の豊かな人で、きっと人との関わりを深く求めているのだろう。ちょっとその謎な生態については興味も湧かなくはないけれど、ふたりで飲むには行動を起こさせる何かが足りない。「時間が合えば飲みにいきましょう」「最近はどうですか?」と誘いを匂わせる連絡は時々来ても、ついつい曖昧な返事をしてしまう。

なるほど、そこで男友達の「もうひとり呼んでいい?」の言葉の意味を理解した。

無理に背伸びもせず飾りっ気がないところが好感も呼ぶし、居心地も良い。だけど、正直ふたりで飲むにはいつも何かが足りないのだ。誰かと飲んでるときに、途中から呼ぶのがちょうど良い人、そんな感じがしっくりくる。

やりとりが長引けば長引くほど、まるでSiriと会話しているかのような気持ちになってくる。たまにくる疑問形の質問にだって、「それは面白い質問ですね」と返したくなるほどだ。

自分の話をするのはそんなに得意でない彼が送ってくる俺通信は、彼なりの努力なのかもしれない。だけどいつだって今は続いているこのLINEが弾むことは今後きっとないだろうし、時間がたてばこのまま疎遠になって終わるのだろう。掘ればきっと面白い彼の生態は、結局今もわからないままだ。時間がたてばその興味すらも熱度が下がって「無」になってしまう。

・相づちが上手
・否定的な会話はしない
・定期的な俺通信を送ってくる
・誰かと飲むくらいがちょうどいい

こんなちょっと残念な人はきっとどこにでも存在するのだろう。だけど、誰かと飲む時に誘うくらいがちょうど良い彼が、誰かにとってかけがえのないたった一人の存在になることはそう簡単にできることじゃない。40年間ひとりぼっちで生きてきた彼の人生がそれを物語っているようにも思えた。